雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

月の塵/幸田文

いまさらながら、幸田文の読者とは誰なんだろう、と思った。

懐古的な随筆はいつの日か考古趣味の対象になり、文学としては読まれなくなるのではないかという気がする。

幸田文が書いている対象について興味がある読者というのは誰なのだろう。

そして、幸田文の語り口、物の見方に共感する読者というのは誰なのだろう。

明治生まれの筆者が昭和の時代に書いた文章を、令和の現在に読むということはどういうことなのだろう。

幸田文を読み耽るうちにそんなことを考えた。

 

月の塵 (講談社文庫)

月の塵 (講談社文庫)

 

 

季節のかたみ/幸田文

幸田文の文章に惹かれている。

そう思って随筆を借りてきたのだが、ちょっと違うようだ。

悪くはないのだが、ちょっと思ったのと違うと言うか。

読者の勝手な思い込みなんだろうとは思うのだが、いまひとつに感じてしまうのは、老いの影が見える点だろうか。

 

季節のかたみ (講談社文庫)

季節のかたみ (講談社文庫)

 

 

父・こんなこと/幸田文

幸田文幸田露伴の次女である。

従ってこの「父」とは幸田露伴のことである。

幸田露伴の臨終記ともいえる表題作、その亡き父の思い出を語る随筆である。

幸田文の語り口は、東京の下町の喋りの息遣いが感じられる。

たぶん、言葉使いだけじゃなく、その背後にある物の見方のようなものが、自分の祖父母や親戚、亡き父に通じるものがあるような気がする。

そして、語られる対象の幸田露伴にはまさに、明治生まれの祖父の面影に通じるものがある。

語られる言葉、語られる人となり、それらが個人の記憶や印象と結びついてしまう。

そしてこの感覚は、いずれ誰にも分からなくなる。

その頃には、幸田文はまだ読まれているのだろうか。

SNSで垂れ流されていく言葉と、そこに標準語が移ろってゆくうちに、東京の下町言葉は霧散してしまうだろう。

 

父・こんなこと (新潮文庫)

父・こんなこと (新潮文庫)

 

 

チベット旅行記/河口慧海

読了まで何ヶ月かかっただろうか。

まぁ、長い旅行記である。

それだけ道中の出来事やら沢山あるのだが、事の仔細が、上から目線なのが気になった。

明治維新の矜持を前提に他国を眺めているので、それはもう酷い言い様である。

冒険記として、或いは民俗学として、当時のチベットの人々の暮らし様がわかるのだが、一方で偏見に満ちた政治や経済の記述はあてにならない気がする。

だが、二十世紀初頭の国際情勢や日本人の考えのようなものが透けて見えてくるのが面白い。

 

 

チベット旅行記

チベット旅行記

 

 

木/幸田文

幸田文をもう一冊。

今回も図書館で借りたのだけど、こちらの方が気になっていたのだった。

タイトルの通り、木に関する随筆である。

雑学を披露するでもなく、淡々と木に対する印象や描写で綴られ、作者の思いが込められる。

随筆とは随想、つまり心に浮かぶ由無し言を、書き綴ったものだと言えば、誠に正しい随筆であると言える。

だが一方で、そういう文章は反りが合わないと腑に落ちないものになるだろう。

残念ながらこの本は、今ひとつピンと来なかった。

良い文章だし、テーマだって面白いのだが、ちょっとついていけない。

読んでいても言葉が上滑りして、どうも腑に落ちた感じがしない。

残念である。

 

木 (新潮文庫)

木 (新潮文庫)

 

 

雀の手帖/幸田文

幸田文幸田露伴の娘、と書いてみても、もはや幸田露伴の読者なんて、学生か年寄りだろうか。

ましてや、娘の幸田文なんて読まれていないような気がしてならない。

この随筆(あえてエッセイとは言わないでおこう)は、新聞に日々掲載されたもののようだ。

そこで綴られる日常と今の自分との距離感に思いを馳せると共に、変わらないものの数を数えてみたくなる。

それ以上に思うのは、幸田文のような上品さというものが、今はどこにあるのだろうか。

この随筆の語り口というものは、子供の頃の東京の東側の感じがする。

それは観光地としての下町ではない。

江戸情緒だとか、下町風情といったものではなくて、そこで暮らす人たちの言葉使い、息遣いのようなものが、立ち昇ってくるように思った。

 

雀の手帖 (新潮文庫)

雀の手帖 (新潮文庫)

 

 

 

自分を信じていい時代/モーリー・ロバートソン

電子書籍をふらっと買ってしまった。

モーリー・ロバートソンは、週末深夜のFMでオルタナ系電子音楽をかけるイメージしか持っていなかったのだけれど、最近はTwitterで発言をみかけたり、TVにも出ているようだ。

そんなモーリーが本を出していたので、ちょっと買ってみた。

ネットでフラット化する世界観の話。

ちょっと話題が前だよな、と思ったら6年前の本だった。

 

 

 

 

モーリー・ロバートソン