雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

密会/安部公房


なにかを一度ずらしてしまったらそれを押し留める理由はあるだろうか

密会 (新潮文庫)

密会 (新潮文庫)


密会とは何だろうか?
何かから逃げ出し、誰かの眼の届かない所で、別の誰かに会うことだろう。
そこには追われる者と、追う者の三角関係、或いはそれ以上の関係性が交錯する。
安部公房がこの物語を「密会」としたのは何故だろう?
この物語は冒頭から、追う者と追われる者の関係が、尻尾を飲み込んだ蛇のように円環構造をなしている。
何者かにさらわれた(或いは別の誰かに会うために逃げ出した?)妻を追うはずの主人公は、自分の追跡報告を求められる。
密会における追う者と追われる者が同一であるため、密会そのものが倒錯する。
常に正常であり続けようとする主人公は、いつしかその基準を見失っている。
似非発明、似非医学用語、フリークス、見えない権力構造、張り巡らされた盗聴網、不条理な暴力、錯誤をうながす名詞、この物語は、ずれていくための物語なのだろう。
何かのカタルシスを拒否し、予測される次の場面を拒否し、意味を拒否し、届けられた明日の新聞は、現在を拒否しているのだろう。
この物語は「箱男」の次に書かれたという。