雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?/フィリップ・K・ディック


フォークト・カンプフ法

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))


いまさら何か解説する必要があるだろうか?
映画「ブレードランナー」の原作であり、ディックの作品の中でも有名な作品であろう。
改めて読んでみると、こんなに暗いのかと思う。
デッカード夫妻の倦怠感、死の灰が降り注ぐ地球、デッカード自身の混乱、ふてぶてしいほどのレイチェルの憎悪、生命と人工生命の曖昧な境界線、生命に対する執着と憧憬、この物語を構成する要素は悉く暗い。
だがどんどん引き込まれてしまうのは何故だろうか?
ひとつはレプリカントの追跡の物語であり、ある種の冒険小説と読み替えることも可能では無いだろうか?
もうひとつはデッカード自身の世界観が変わってゆく教養小説のヴァリエーションなのかもしれない。
賞金稼ぎの対象としてのレプリカントに対して、感情移入してしまうことへの混乱、そして恋愛感情と裏切り、を通して、デッカードは別の世界観を得たのかもしれない。
だが、ラストシーンではデッカードは眠ったままだ。
成長しない教養小説、未来のないデッドエンドを暗示しているかのようにも思える。