雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

フェルナンド・ペソア最後の三日間/アントニオ・タブッキ

フェルナンド・ペソアは20世紀初頭のポルトガルの詩人である。
ペソアは異名を使いさまざまな詩を書いた、と言うよりは、異名のそれぞれが独立した人格であり、ペソアは彼らの名前で詩を発表した。
その詩のスタイルは、同時代の前衛芸術運動のスタイルを踏襲し、世界大戦間のポルトガルにおける芸術運動の重要人物だったようだが、日本語で読めるペソアに関する本は、今のところはそう多くはない。


この本はアントニオ・タブッキが、ペソアが亡くなる直前の三日間を、想像力で描いた小説である。
ペソアにとっての異名とは何か、あるいは、異名を生きるということとはどういうことか。
タブッキのペソアに対する思いの一端が、ここに現れているようだ。
タブッキの考えるペソアにとっての異名とは、「私」を成立させるための「外部」として現れているようだ。
創造性の根源にあるものは自己との対話であり、自己との対話を成立させるのは仮定の他者であり、ペソアにとってそれは異名として立ち現れる。
仮定としての他者は、自意識の内部にあるのか外部にあるのか。
ペソアにとってそれは完全な外部として立ち現れ、私とは別人格として存在し、自意識は無限小に、または透明になる。
異名たちは私を支配し、私を通して詩を作り出す。
想像力は私に属するのではなく、異名たちからもたらされる。
この小説においては、異名たちが死の床にあるペソアを訪れ別れを告げてゆく。
異名たちとともに生きたペソアにとっての私は、異名たちとの別れによって終焉を迎えた。


フェルナンド・ペソア最後の三日間

フェルナンド・ペソア最後の三日間