雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

クローム襲撃/ウィリアム・ギブスン

「ニュー・ローズ・ホテル」は成田空港の傍の荒れ地にある、簡単な足場が付けられたカプセルホテルの残骸でできた、まるで棺桶のようなホテルだ。
主人公は敵に追い詰められ、残された時間ももうほとんどない。
思い出のこのホテルで、いなくなった女の持ち物だったピストルを手に、回想するところから話が始まる。
舞台は東京、ベルリン、マラケシュ
財閥と生命工学、「エッジ」を巡る攻防。
あまりに感傷的な語り口で、一連の事件と女の思い出が回想される。
ここで描かれている近未来は、生まれた途端に朽ち果て始めている。
それは主人公の避けられない、もうじきに訪れる死のイメージと重なる。
主人公はヒーローではない。
世界を救うなんてこともしない。
敗残者であり、破滅に向かっている自分の運命に抗うこともない。
だが、死を目前に感じながら、胸がむかつくほどに感傷的な語り口で、うだうだと女との思い出に浸る男の姿は、ひとつのダンディズムを感じる。
この感じ伝わるだろうか?
映画「ブレードランナー」の主人公デッカードが、レプリカントに不意に襲われて殴られる姿の方が魅力的であり、その後、反撃するにつれてある種の失望感を覚えてしまう感じ、と言えば伝わるだろうか?


クローム襲撃 (ハヤカワ文庫SF)

クローム襲撃 (ハヤカワ文庫SF)


この本はウィリアム・ギブスンの初期短編集である。
ここに収録されている、他の作品の主人公たちも、基本的には同じような破滅に向かっている。
「記憶屋ジョニイ」と「赤い星、冬の軌道」ぐらいが、やや救いがあるだろう。
だけど、何度読んでも「ニュー・ローズ・ホテル」の主人公の、どうしようもない姿に惹かれてしまう。