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雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

東京レクイエム/猪瀬直樹、北島敬三

東京

昭和天皇崩御し、平成に切り替わったのはもう二昔前の出来事だ。
猪瀬直樹氏はそこに歴史の裂け目が現れたという。
この本はその辺りの日本の姿を記録しようとする。
マスメディアは自粛というキーワードを濫用し、社会的な雰囲気を盛り上げた。
自民党政権は来るべきXデーと諸々の儀式を恙無く進める為に、秘密裏に準備を整え、大正天皇崩御の際にも見劣りしない国家儀式を行った。
世論調査は天皇制に対して、積極的な肯定や否定を唱えるのは少数であり、大多数は親近感と容認という姿勢であることを示していた。
論文というより、随筆に近い筆致で分かり易いキーワードを散りばめて、あの頃を記録している。
印象に残ったキーワードの一つは、大晦日、のようだったという。
それまでの日々にピリオドを打ち、昭和という時代に幕を引く。
連続的な生の時間への裂け目、それをきちんと自覚したいという、意識下の欲望を満たす為に、整えられていたのだろう。
猪瀬氏は明言はしていないが、これはバタイユ的な生と死、供儀とエロティシズムの考えに非常に近いと思う。
連続的な生の時間に非連続な裂け目が挿入される。
昭和天皇崩御という死に際し、その儀式へ積極的に参加することで生を活性化させる。
他にも、崩御から派生し、明治政府以降に作り上げられてきた日本の伝統的なるものの擬制や、近代化と天皇自身に関する示唆など、話題は広がっていく。
特に印象的なのは、巻末の吉本隆明との対談に於いて、日常に光が増すほどに皇居の闇は深くなる、社会から死は遠ざけられ、個人として死に向き合う無意識のプレッシャーが増加する、との示唆である。
思うに、明治政府以降の近代化の道のりで蓄積された闇は、最終的に人々は意識下で昭和天皇崩御に仮託してしまい、政府はそれを高度な国家儀式として執り行う、という文化的なるものの不可視のシステムが存在しているということなのではないか。


書き忘れるところだったが、北島敬三氏の写真もまた、空虚な風景をうまく切り取っている。


東京レクイエム (河出文庫)

東京レクイエム (河出文庫)