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雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

二つ枕/杉浦日向子

コミック

今更ながらに杉浦日向子の作品の魅力について語るのは、かなり野暮なことに他ならないと思うのだが、ふと読み返してみたこの作品の巧さに、思わず読み耽ってしまった。
舞台は江戸時代の吉原の遊郭の、しかもその「二つ枕」の床の中。
4人の花魁と、そこに遊びに来た客である男との会話が、この作品の中心であり全体でもある。
そこに壮大なファンタジーが展開されるわけはなく、云わば、商売上の幾度と無く繰り返されたであろう、ありふれた会話がなされる。
だが、何気ない会話、であるかのように見せかけて、花魁と客との微妙な駆け引きがそこに見え隠れする。
追えば引き、引いては追い、惚れた素振りを匂わせながら、相手に惚れたと言わせようとする。
それはゲームのように見せかけて、隙間に本気が滑り込む。
愛だとか恋だとかと言うよりは、惚れるとか情けをかけるとか言うほうが、しっくりくる。
そんな会話の妙味に乗せられてしまう。
また、話の舞台が閉ざされた空間でありながら、季節感を巧みに織り込んでゆく。
各話の主人公である花魁は、初音、麻衣、萩里、雪野、とそれぞれの名前が春夏秋冬を表している。
会話や小物にも、初卯詣、蚊帳、長雨、火鉢とさり気なく季節を感じさせる。
更には各話毎に、絵のタッチまで変えている。
それは、春信、北斎、英泉、歌麿を模しており、特にラストのコマにはニヤリとさせられる。
これがもし小説だとしたら、ここまで様々な仕掛けを織り込んでいけただろうか。
話の妙味とマンガという表現ならではの仕掛けが幾重にも重ねられている、そんな作品だと思うのだ。


二つ枕 (ちくま文庫)

二つ枕 (ちくま文庫)