雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

老人力 全一冊/赤瀬川原平


最近はようやく見かけなくなった気がするが、「○○力」というタイトルのビジネス書が溢れた時期があったと思うが、その少し前ぐらいに流行ったと記憶している。
老人力」というものは、体力測定的な数値化や比較できるものではなく、「老人なのに」的なニュアンスでの元気さを表しているのでもなく、年を重ねたことにより発生する物忘れや衰えを、「老人力がついた」と表現する。
つまり、「老人力」というキーワードで物事を説明してみる、一種の遊びなのだと言えるだろう。
そもそも、赤瀬川原平氏の作り出す概念的なものは、本気と冗談の境目のようなところがあると思う。
この本の発端となった「老人力」も、発端は路上観察学会での冗談のような会話から始まったということだが、いったんそれが世間に解き放たれると、誤解や喝采を受けながら概念が独り歩きを始めたようだ。
赤瀬川氏自身も、そんな様子を楽しんでいる部分もある。
そして「老人力」とは何かについて、赤瀬川氏自身が考察し、忘却力だとか田舎力だとか言い換えてみたりもするのだが、それもふわりと逃げていくような感じがする。
つまりは、冗談と本気の境目で、深刻な事を冗談でかわし、真面目に冗談を追求するためのキーワードとして、「老人力」というのは存在するのだろうと思うが、もはや流通されすぎてしまい今では忘れ去られてしまったのだろうか。
だが、自らの衰えを自覚した時には、「俺もだいぶ老人力がついたな」と、ひっそりつぶやいてみると、何かが変わるかも知れない。
定義付けられて硬直化した概念と言うより、キーワードで日常を捉えなおすことにより新鮮さを感じられるかどうか、そのためのツールのひとつかもしれないと思う。


老人力 全一冊 (ちくま文庫)

老人力 全一冊 (ちくま文庫)