雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

うまやはし日記/吉岡実

何処となく騒然といていて腰の落ち着け処がないような日々が続いている。
それまで“ありふれた”とか“変わらない”と思っていた日常というものが脆くて儚いものだったことに改めて気づき、その“変わらない”ことの在り難さを噛みしめる。
この本は詩人である吉岡実氏の二十歳の頃の日記から詩人自身が編集したものだ。
時代としては昭和十三年〜十五年にかけての抜粋であり、徴兵検査や日中戦争の事も少し触れられる。
だがここに綴られているのは、私的な日常の微風の細波のような出来事である。
大上段に構えた思想や世相を声高に語ることもない。
淡々と綴られたこの日記を読んでいると、何か静謐さのようなものが染み入ってくる。
そしてそれは、一見したところ吉岡実氏の詩作品とはまったく異なるのだが、どこかで共通しているようだ。
その静謐さのようなものが、いま欲しかったものだったのかもしれない、と思った。


うまやはし日記 (Le livre do luciole)

うまやはし日記 (Le livre do luciole)