雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

ティンブクトゥ/ポール・オースター

主人公は犬である。
世の中には犬好き、猫好き、その他動物好きな方々がいらっしゃるので、この本もそういったカラーの本かと思い込んで、なかなか手が出せずにいた。(表紙もまた、それっぽい写真じゃないかと思ったりもするのだが…)
主人公のミスター・ボーンズは、ちょっといかれた飼い主のウィリーと放浪する生活を送っていた。
ウィリーの両親はポーランドからユダヤ人迫害を逃れてアメリカにやって来た移民である。
長年の放浪生活と飲酒がたたってウィリーの死期が近く、最期に高校の恩師へ逢いに来ている。
ボーンズにとってウィリーのいない世界は考えられないと思っているが、やがて、ウィリーは亡くなり、ボーンズは放浪せざるを得なくなる。
見も知らぬ町を彷徨い、ウィリー以外の人間とに接したりもするが、やがて、裕福そうな家に拾われる。
だが、鎖につながれ、去勢される。
また、家庭自体の問題に巻き込まれることになり、一時的に新しい飼い主たちと離れることになり、物語の結末へと向かう。
この物語は、移動(または放浪)と約束の地を巡る物語であろう。
それは、ウィリーの両親が命からがら戦時下のヨーロッパを脱出し、アメリカという約束の地へと辿り着いたことに始まる。
ウィリーは両親への反抗からドラッグから精神錯乱、そして放浪生活を経て、発表するあての無い文学作品を高校の恩師へと託すためにボルチモアという約束の地へと辿り着いた。
ボーンズはウィリーとの放浪生活もあるが、むしろウィリー亡き後の安息の地を目指す移動、そして夢での亡きウィリーとの交感を経て、ティンブクトゥという約束の地を目指す決意を固めてしまう。
だがこの物語における約束の地は、必ずしも薔薇色のものではないのに注意しなければいけない。
ウィリーの両親にとってのアメリカも、ウィリーにとってのボルチモアも、ボーンズにとっての新しい飼い主であるジョーンズ家も、いささか苦い味がするものだろう。
さて、ボーンズにとってのティンブクトゥはどうだったのか。
それは、明かされないままに物語は閉じてしまう。


ティンブクトゥ (新潮文庫)

ティンブクトゥ (新潮文庫)