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雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

ある漂流者のはなし/吉岡忍

日記

小さな漁船で漁に出て、船が故障してしまい、そのまま37日間も漂流し、生還した武智三繁さんへのインタビューによる本。
といっても、武智さんの話をただ再構成し、纏めたという内容ではない。
著者の吉岡忍氏は、武智さんの生い立ちに遡り、武智さんという人間に向き合い、その漂流中にあったことを記録するのではなく、その時何を考え、何を思っていたのかを追体験しようとしているようだ。
長崎で故障した船は、黒潮に乗って漂流し、千葉県銚子沖で偶然に発見される。
それが、大変な体験だとか、奇跡的な実話だとか、何かカテゴリー的に解ったつもりになってしまっても、何も解ってはいないだろう。
最初は何とかなるさという感じがしていたのが、食料が尽き、水が尽き、耐え難い暑さが襲い、やがて、すぐそこに死があるすれすれにまで到達してしまう。
生と死は紙一重なのだけれど、そのことを静かに感じ、だが全てを受け入れるようにそこに居る。
誰も居ない海の上で、(武智さん自身はそう考えていないのだろうけれど)私に見られている私と、私を見ている私に分裂する。
やがてそれも薄れ、無為な、ただそこに居る時間が流れる。
それが実体として眼前に存在すると言う意味ではなく、自らの意識の中に仮想する、他者という存在を失ってしまうと、意識も時間も曖昧になり、死へと近づいてしまうのかもしれない。
たまたま図書館で目に留まったので、借りてみたのだが、想像以上に読み応えがあったのだった。


ある漂流者のはなし (ちくまプリマー新書(014))

ある漂流者のはなし (ちくまプリマー新書(014))