雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

墨攻/酒見賢一

何となく時代小説が苦手だ。
歴史にあまり興味がないので、その面白さは判らないだろうと思っていた。
だが、この本は何となく気になっていたので、図書館で借りてみることにした。
そして読んでみると、みるみる引き込まれてしまった。
舞台は戦国時代の中国である。
主人公は、革離という墨家である。
そもそも、墨子とその墨子集団については、判らないことが多いらしい。
そこに、小説家の想像力を、自在に働かせたようだ。
とある田舎豪族の城(中国なので、城郭都市)へ、革離が到着することから、物語が始まる。
趙の軍勢から守るために派遣されたのだが、城主は色欲に耽り、城主の息子は墨家に反感を抱いていて、城の守備自体も杜撰なものだった。
そして、主人公の奮闘が始まる。
物語と作者の墨子に対する考察が、交互に語られ、物語のクライマックスへと連れて行かれる。
この小説の魅力とは何か。
墨家という題材自体のセンスもありつつ、物語の展開の上手さもあるように思った。
主人公が逆境から、やがてヒーローへと展開するストーリーは、古典的といえば古典的だ。
しかしやはり、物語としてのエンターテイメント性としては、引き込まれてしまう。
そして、文庫本で百数十ページという短さも、読者を飽きさせない量のような気がする。


墨攻 (新潮文庫)

墨攻 (新潮文庫)