笠井潔氏の最初の評論である。
なぜ人は観念的なるものに支配されてしまうのか、を現象学的に、あるいはヘーゲル現象学のパロディとして展開している。
引用される文章も、吉本隆明、高橋和巳、埴谷雄高、ドストエフスキー、バタイユ、ヘーゲル、エリアーデ、マルクス、ルカーチ、メルロ=ポンティなど、多岐に渡っている。
笠井氏の思考のスタートには、連合赤軍事件がある。
ちょっと前に映画化もされてたような気がするが、1970年代の極左集団が起こした、一連のリンチ殺人事件である。
観念的なるものを、自己観念、共同観念、集合観念、党派観念に色分けし、その倒錯していく過程をなぞっていくことで、対抗しようとするのである。
乱暴に要約するとすれば、世界喪失を起因として鋭角化する自己観念は、その遠方指向性から、最終的には自己観念と党派観念の錯視によって、被害者自らが暴力を容認してしまう、という感じだろうか。
初めて読んだときは、難解な言い回しに四苦八苦しながらも、その主張するところは大いに合点がいった。
理想を目指していたはずの革命が、血塗られたテロリズムに摩り替わっていくのは、どこかで誤ったのではなく、当初から内包しているということだ。
批判の射程範囲はマルクス主義思想だったと思われるが、この本が出た以降の、共産主義国家の崩壊後の民族紛争、様々な新宗教がらみの事件、昨今の政治状況など、この評論の射程範囲内の事象は今でも起き続けているように思う。
読み返してみても、読み応えがある。
持ち歩けるように、文庫版でも買った。
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最初に読んだ時は、ハードカバー。
禍々しいほどの、真っ赤な表紙が印象的だ。
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