雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

かむなぎうた/日影丈吉

日影丈吉を知ったのは、恐らく夢野久作辺りから辿りついたのだろう。
いずれにしても、探偵小説(あるいは、ミステリー?)は、あまり馴染みの無い分野だ。
だが、日影丈吉の描く世界は、江戸川乱歩吉田健一の描く、昔の東京の風景に繋がっていると思った。
江戸川乱歩の描く東京が、大正から昭和初期にかけての魔都、吉田健一の描く東京が、戦前の失われた陽だまりのような地方都市、と見るなら、日影丈吉の描く東京は、その中間に一瞬だけ現れる、夕間暮れの空のようだ。
舞台となるのも東東京や千葉であり、登場人物達も富裕層ではなく市井の人々だ。
描かれる街も煌びやかなものなど無いが、かといって悲惨な光景ばかりでもなく、高層ビルの谷間に今でもたまに遭遇する路地裏の静謐のようなものが漂っている。
ノスタルジーに浸れるほど長生きしているわけでもないが、いつか見たような景色と思ってしまう。
稀有な作家であるには違いない。
久しぶりに読み返してみて、再発見したような気になった。


持っているのは、今は無き、現代教養文庫版。


他にも、ちくま文庫でも出ていたようだが、こちらも絶版のようだ。