雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

夢の浮橋/倉橋由美子

だいぶ前に見かけなくなっていたので、絶版かとあきらめていたのだけれど、ふと立ち寄った本屋で発見し、買ってしまった。
倉橋由美子氏の後期に代表される「桂子さん」モノの第一作目である。
読み終えて思うに、物語を要約することに、意味は無さそうだ。
残念ながら、源氏物語を読み通したことも無いし(というか、源氏物語そのものに魅力を感じないのだが)、谷崎潤一郎にも同名の小説があることも知らなかったが、どうやらそういった過去の文学作品を下敷きに小説世界を作り上げようとしているのは、うすうす感じることはできる。
だがそれよりも、「桂子さん」の人物設定に注力している作品のように思った。
典型的な女性でありながら、女性的なるものを超越した存在として、だがしかしそれは、地母神的なるものとは対立するような存在であるような、そんな人物ではないだろうか。
物語の中では「やわらかい」という言い方で表されるのだが、世間一般的な善悪だとか道徳・非道徳といった規準に囚われずに、欲望すらも単なる手段として、快なるもの(それは、怪でもあるようなのだが)を追求する存在を作り上げることが、この小説なのだと思う。
挿話のように差し込まれる学生運動のディテールも、両親達のスワッピングも、「桂子さん」は軽々と越えてしまっているようだ。
そういえば大学時代の友人が、しきりに「桂子さん」を讃美していたのを思い出す。
それはどういう意味だったのだろうか、いま一度訊いてみたい気もする。

夢の浮橋 (中公文庫 A 17)

夢の浮橋 (中公文庫 A 17)