この本もまた、忘れられなくて買い直した本である。
集められた話の真偽を云々するつもりも無い。
語りの妙は、宮本常一氏の編集力が素晴らしいのだと思う。
改めて読み返してみると、取り止めも無く語られた話を、再構成したのだろう。
そこには、宮本氏自身が古老たちの話を楽しんでいる様子が思い起こされる。
そして、道なき道を分け入り、山村に人々の姿を探し歩くその行動力は真似することなど出来ない。
今でも、この本に描かれた地方というのは、存在するのだろうかと考える。
例えば携帯電話会社のエリアマップで、まだ塗りつぶされていないようなところでは、きっと携帯電話は通じないだろう。
だからと言って、それが携帯電話を使わないことにはならない。
電気、ガス、水道に加えて、郵便、テレビ、インターネット網、携帯電話網が社会インフラになっている、と思ってしまうことに何か違和感がある。
テレビを見なくとも、新聞を読まなくても、ケータイが通じなくても、死にはしない。
でもそれで社会から弧絶しているかどうかはわからない。
きっと、住民登録していれば、選挙の投票券ぐらいは届くのだろう。
社会というか、社会制度的なものは、余白を無くそうとするようだけれど、この本に描かれた人々は、その余白として見えていなかったような気がした。
もっとも、全てが網羅されてしまうことは、何だか気味が悪い。
掬ってもこぼれ落ちてしまうものなんていくらでもある、ということをどこかで忘れようとしている。
忘れられた日本人とは、自ら忘れようとした姿に他ならないのではないか。
いったい何を思ってこの本を読み返しているのだろうか。
もしかして薄気味悪いノスタルジアに耽っているのだろうか。
失われ逝くものを記録するのは構わないが、それを取り返そうとするのは誤っているだろう。
ここにいてはいけない、そんな気がした。
- 作者: 宮本常一
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