雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

日本の島々、昔と今。/有吉佐和子

本屋で見かけてちょっと気になったので、図書館で借りてみた。
そもそも有吉佐和子氏を読むのは、これが初めてである。
あまり手が延びない類の作家だ。
苦手ということでもないのだけれど、あまり興味をそそられないと言うか。
だいたい、他の著作を訊かれても答えられない。
それはともかく。
この本は、いわゆる『離島』と言われる島々を巡るルポルタージュである。
だから、旅行記とはちょっと毛色が違う。
これらの文章が書かれたのが、1979年から1980年にかけてであり、当時の世界情勢のイラン革命とそれに続くアメリカ大使館占拠事件、そして70年代後半からの原油高といったことが、日本の漁民にどんな影響があったのか、という興味から入っている。
旅行というよりは取材といった姿勢で、現地の統計情報や歴史に当たったりして、脱稿されているようだ。
次第に、漁民のありようというより、日本の境界の不確かさといった点に興味が向いていくといった辺りから、この本は面白くなる。
ひとつは、太平洋戦争の敗戦と領土という線上に現れる、沖縄、小笠原、北方領土といった連なりだ。
そこに暮らしていた人々が、追い立てられたり、返還されたり、されなかったりという姿を描き出している。
もうひとつは、今も続いている領有問題の線上に現れる、竹島北方領土尖閣諸島の歴史的なねじれである。
気をつけなければいけないのは、有吉氏が手際よくまとめているこれらの問題を読んだことで、何かを考えた気になってしまうことかもしれない。
問題が歴史的に立ち現れている事実と、それに対する態度は、表裏一体であるが、全く別のことだ。
それに加えて、有吉氏の主観がまぶされている点も気をつけなければいけない。
この本は学術論文でもないが、エッセイでもない、というところに、読み手は気をつけなければいけない。
逆を返せば、ただ要約するだけで何かを語っているかのように見えるだろうから、学校の読書感想文には最適だと言えるかもしれない。


日本の島々、昔と今。 (岩波文庫)

日本の島々、昔と今。 (岩波文庫)