なかなか読み終わる本が無いので、合間に電子書籍で「文鳥」を読み返してみた。
けだし名品である。
いまさらそんなことを改めて言う必要も無いくらいだが、やっぱり名作だと思った。
興味があった訳ではなかったのに、鈴木三重吉に勧められて、夏目漱石は文鳥を飼うことになる。
時々忘れながらも、世話をするうちに、愛着が湧いてゆく。
昔、付き合った女の姿に重ね合わせるくだりは、夏目漱石らしからぬ描写ではないだろうか。
だがほんの不注意で死なせてしまい、下女を叱りつけながら遺骸の始末をさせる。
直截な心情の吐露は無いが、じんわりと漱石先生の悲しみが滲み出している。
正直なところ、この作品の良さは大学生になるまで判らなかった。
しかも、友人と話すまで、気付いていなかった。
中学生の頃に「夢十夜」を読んで夢中にはなったが、新潮文庫で併録されている「文鳥」は読み流していたようだ。
大学生の頃、恐らく酒を呑んだ時なのだろうと思うが、友人たちと小説談義になり、あの作品はどうだとかこうだとかいった話をしていたのだと思う。
今にして思えば、暇で、青臭い、いかにもなエピソードではある。
そこで、友人の一人がこの「文鳥」について語った。
その場ではなるほどね、とは思いはするものの、作品を確かめる訳でもなく、流れてゆく。
だが、別の日にふと読み返した拍子に、この友人との記憶が蘇ったのだ。
日々、本を読んでいても、果たして本当に読み込めているのだろうか。
ただ字面を追っているだけなのではないだろうか。
ともあれ、読まずには気付けもしないのだから、読んだ方がいい。
「夢十夜」も読み返してみた。
やはり、名作だと思う。
夢なのか、創作なのか判然とはしないが、漂う緊張感と不安が封じ込められている。
意味だとか、教訓めいたものがあるようで、実は無いんじゃないかと思わせる辺りもにくい。
「文鳥」も「夢十夜」も、味わうように読むのが良いのだろう。
上等なお茶か、或いは芳醇な酒を友に、ゆっくりと読みたい。
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中学生の時に買ったのは、どこに行ったのだろう。
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