所詮は物語
- 作者: J.G.バラード,James Graham Ballard,山田順子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1998/09
- メディア: 単行本
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新興高級住宅地を舞台とした連続殺人事件。バラード流のサスペンスであるが、ほかの「コカイン・ナイト」や「スーパーカンヌ」に比べると短い。だが、凝縮されバラード流の記述が読ませる。
事件が迷宮入りしそうになっている時点から、遡っていくのだが、事実だけが並べられ、事件の「なぜ」の部分は無い。そこがこの本の主題であり、サスペンスたる所以である。
だがその主題はただの物語なのだろうか?
とはいえ、殺人は人類の「原罪」である一方、戦争という大いなる「罪」が無くなり、専制政治の消滅により、ソフトな管理社会がミクロのレベルまで浸透してきたことで、「原罪」がよりグロテスクに強調されてくる、そんな論理は本当だろうか?
高度情報社会が欲望の流通を加速度的に促進し、ソフトな管理体制での抑圧は、高まったポテンシャルをより激しく、よりグロテスクに噴出させることにつながるのだろうか?
使い古されたありもしない希望よりは、ありうべき最悪のケースを想像する方がましだとは思うが、実はソフトな管理社会を強化していることになっていないだろうか?
光を求めれば求めるほど、闇が深くなるのだとしたら、全ては薄明の中に霧散したほうがましというものではないのだろうか・・・