雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

サラエボ旅行案内―史上初の戦場都市ガイド/FAMA


ガイドブック、何の?

サラエボ旅行案内―史上初の戦場都市ガイド

サラエボ旅行案内―史上初の戦場都市ガイド


1992年に始まったボスニア紛争の中でこの本は書かれている。日本語版は1994年。
このボスニア紛争(あるいはユーゴ内戦)も、10年以上の時が過ぎている。
だが、この本は薄いながらも、そこに書かれていることは重く、全く古びていないと思う。
ボスニア内戦の悲惨さは、Webで検索でもすれば、いくらでも出てくる。
隣人同士の殺し合い、大規模な虐殺、計画的な集団暴行、NATOの不手際、そのような記録がこの本の主題ではない。
ソ連・東欧の共産主義国家の崩壊の中、なぜユーゴスラビア民族主義を背景とする内戦に突入し、ナチス以来と言われる非人道的行為を行ってしまったのだろうか?
しかし思うに、共産主義にしても、民族主義にしても、そして人道主義にしても、それは観念の魔物に違いないのではないだろうか?
だが、それもこの本の主題ではない。
サラエボという街が包囲されて、孤立した中で生き延びるための手立て、としてのガイドブック、というのが表面的な姿だ。
だが、中に記載されている写真は、炎上する建物、路上の血溜り、傷つく人々、そして時には遺体、墓地、子供たち、そういったものだ。
だがその悲惨さを伝えるのが、この本のテーマではない。
そんな状況を起点にして、平和なサラエボ以外の街の人々がパロディなのだと転倒するのが、テーマなのだと思う。
特殊な状態としての戦争ではなく、戦争がないという特殊な状態であるということ。
そしてそれは、あっという間に変わってしまうということ。
そして、そんな状況でも生き延びてゆくためにはどうすべきか、それも重要なテーマなのだと思う。
それが何であるかは、この本を読んで感じるべきだろう。