雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

深夜特急〈1〉香港・マカオ/沢木耕太郎


旅に出る理由

深夜特急〈1〉香港・マカオ (新潮文庫)

深夜特急〈1〉香港・マカオ (新潮文庫)


紀行文といえばよく話題にされるのがこの本だが、今まで手に取ることはなかった。
だが、義母が捨てるというので借りてみた。
そもそも、旅行という体験は個人的なものであり、その記録は個人的な価値しかないのではないか、個人的な価値を超えて普遍的なものに至るには紀行文としてのスタイルが必要なのだと思っている。
それが何であるかは判らないが、「深夜特急」を推薦する文章を読んでも、その基準には満たないような気がしていた。
で、実際読んでみると、そこにあったのは個人的な記録である。
1巻目は、香港と澳門である。
已むに已まれぬ熱情に浮かされるように、旅に出る。
香港の怪しげなホテルに泊まり、路地裏をさまよい、言葉の壁にもどかしさを感じながらも、そこに住む人々と交流することで、見えていなかったものが見えてくる。
観光ではなく、移住でもなく、旅行として見知らぬ街に身を置く。
そういった在りようが見えてくる。
だが、澳門では「大小」という賭博にはまる。
旅の資金を稼ごうというより、その場の状況に巻き込まれて、過去も未来も忘れてしまっている。
旅に出る理由は見えてこない。
何かに突き動かされ、今というその瞬間に、ここでは無いどこかへ身を置き、何かを忘れている。