- 作者: 岡本太郎
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2005/05/10
- メディア: 文庫
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岡本太郎の目に、「伝統」と言われるものがどう映ったのかが判る。
従って、この本で悪戦苦闘しているのは、岡本太郎自身といえるかもしれない。
だが、「伝統」を対立軸として捉える考え方自体が、実はこの本で岡本太郎が否定しようとしたドグマの虜なのでは無いだろうか?
時代の文脈の中で捉えるならば、それは革新であり、「前衛」的なスタンスであるだろう。
だが、ポップアート以降の複製とオリジナルの概念や、1980年代以降の匿名性やあらゆる意匠がフラットな同一平面の次元で語られる価値観を通過してしまった今は、それは「前衛」のドグマに映ってしまう。(そしてそれは「伝統」のドグマとネガ/ポジの関係にあるのだと思う)
「伝統」とはそれぞれの時代が創り出した「モダニズム」なのだ、岡本太郎の主張をそういった要約で表してしまうと、現代における「前衛」はいずれ「伝統」へ変質していくことの裏返しであることがわかるだろう。だが一方で、「伝統」を「伝統」として存在させる力との対比で考えるなら、「前衛」と「伝統」は対立なのではなく、同時代における領域の違いとして認識すべきなのではないだろうか?
岡本太郎が見出したものは、自分の影ではなかっただろうか?
だが、見るための立ち位置が異なる、とも言えるが、それが不徹底なのが、私が気になっている点かもしれない。
「伝統」に新しい価値を見出すこと、それは価値の付加であり、「伝統」に見出した手法は、その領域を無限に拡大することは可能であるにちがいない。地域、時間、様式を問わず、そこに新たな「意味」を見い出すこと、そしてそれが美的であることのありようとは何であるだろうか?