雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

愛のゆくえ/リチャード・ブローティガン


物語はいつも一歩手前にある

愛のゆくえ (新潮文庫 フ 20-1)

愛のゆくえ (新潮文庫 フ 20-1)


「ナイーブ」という言葉を聞くと、薄汚れて青臭くて半ば嘲るような感じがするのは私だけかもしれないが、リチャード・ブローティガンの作品は、この本も含めて日本語的な意味での「ナイーブ」と言いたくなるような雰囲気がある。
この本の原題は「中絶」であり、物語の中心にはそのエピソードが綴られる。
(「愛のゆくえ」という邦題をつけたのは何故だろうか?)
だがそれを重くシリアスに描くのではなく、ある意味軽く、淡々と、時には笑いを誘うような筆致で描かれる。
主人公は奇妙な図書館に勤めている男性である。
図書館には様々な人が書き上げた作品が著者によって持ち込まれる。
ある日主人公と運命的な出会いをする女性が現れる。
ストーリーは何てことは無いかのようにあくまで淡々と進んでゆく。
ここにあるのは死と再生と言えるかもしれない。
作品の死、本の死、胎児の死、主人公たちの再生、新しい図書館員の再生。
そこに待ち構えている深淵に足をとられること無く、新しい世界へ溶け込んでしまう。
失望や狂気の手前で回避してしまう。
物語はいつも一歩手前にある。