舞台は逗子の岩殿寺の辺り。
他所から逗留している主人公が、岩殿寺の住職から聞いた話と、寺へ至る道すがらに見かけた女性が物語の中心とでも言えよう。
唄うようにうねる泉鏡花の文体は、色彩と植物の名が溢れ、華やかな描写に乗って、春の昼下がりから不気味な物語が展開する。
不気味とは言っても、化け物が出てきて主人公を驚かす訳ではない。
因果応報ということでも無いのだけれど、何かに操られるように、夢の符牒が現と幻の境目を消し去って、死へと向かう一組の男女の姿。
主人公の独白に、
「目が覚めるから、夢だけれど、いつまでも覚めなけりゃ、夢じゃあるまい」
と言わせるのは、悲劇的な結末に対する、作者の皮肉でもあろうか?
春昼(しゅんちゅう);春昼後刻(しゅんちゅうごこく) (岩波文庫)
- 作者: 泉鏡花
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1987/04/16
- メディア: 文庫
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