もし、石川淳を知らないなら、この本は読まない方が良いだろう。
石川淳は知らないが、取り上げられる人々に興味があったとしても、読まない方が良いだろう。
この本は、小林如泥、算所の熊九郎、駿府の安鶴、都々一坊扇歌、細谷風翁、井月、鈴木牧之、阿波のデコ忠、武田石翁、阪口五峰といった人々の評伝、と言えばそうなのだけれど、あまりに石川淳の色が強すぎるかもしれない。
石川淳の書きっぷりは、丹念に彼らの生涯を追ってみたりするというわけではない。
むしろ、ほとんど語られないと言っても良いかもしれない。
大胆に、自由に、その人となりを描く、だから必ずしも褒める訳でもない。
むしろ、散々にけなしたりする。
だが、石川淳はこれらの人々をただ文献から、人生を追っていって、何をか評しようとしているのではない。
もちろん文献にも当たるが、作品に直に触れ、墓参りをし、古老やその土地の人々に聞き、その人となりを描こうとしている。
例えば、井月の作品を取り上げ「何といふこともない」と断ずるが、「所詮、この風来坊、取柄は俳諧の連歌と旅といふことになるか。それならば、やっぱり芭蕉の門流ではある。」と、さらりと俳人にとって最上級の褒め言葉を贈る。
石川淳の御眼鏡に適った10人それぞれが、そんな調子で評されていく。
その褒め方が理解できないようだったら、その語り口が鼻についてしまうだろうし、取り上げられた人々がけなされていると感じるかもしれない。
だがそうではない。
この本は、読み手を選ぶ本なのだと思う。
- 作者: 石川淳
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2005/09
- メディア: 文庫
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