ジジェクを知ったのは、90年代後半の頃だろうか。
確かボスニア紛争の後だったように記憶している。
ラカンやヘーゲルを多用しつつ、時事問題や文化領域に切り込んでいく、ちょっと読みづらい文章だったと思う。
この本は、岡崎玲子氏によるインタビューと、ジジェクの文章が交互に収められている。
読んでみて、初めてジジェクに触れた頃のことを、ちょっと思い出したような気がする。
この本を要約することは難しい。
そもそもジジェクの主張を要約すること自体、ちょっと手に余る感じがする。
それでも、いくつか重要なポイントがある。
ひとつは、人権を巡る議論だ。
人権擁護の主張が発せられるとき、それは政治的な背景が織り込まれており、擁護されるべき相手の主張ではなく、擁護する側の裏返しの主張によってなされる。
人道的支援が必要な状況だ、と言っている主体は、事実が何であれ、その現場に非人道的な幻想を押し付け、明らかに事態を「向こう側」の出来事として追いやっている。
従って、人権そのものが、社会の基礎としての権利として主張されるのではなく、第三世界を巡る被差別的な言説として立ち現れる。
もうひとつは、反米主義とでも言うべきグローバリズムへの批判である。
何が自由であるのか。
経済における市場開放、自由な国際競争の主張の裏側に、国家による優遇施策があり、先進国と発展途上国とは、対等には競争できない構造がそこにあるという。
そして、国際企業がすなわち国家の出先機関のように振る舞い、不公平な市場経済が世界を席巻している。
ジジェクの主張を、上手くまとめられてはいないと思うが、そんなところが印象に残った。
久しぶりに歯ごたえのある本を読んだ気がした。
また、岡崎氏のインタビューも上手く、ジジェクの主張を誘導しているように思った。
ふと、「最も倫理的な者が、最も残酷な事を為し得る」という言葉が頭を過った。
誰の言葉であったろうか。
- 作者: スラヴォイジジェク,Slavoj Zizek,岡崎玲子
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2006/11/01
- メディア: 新書
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