雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

完本 酔郷譚/倉橋由美子

久しぶりに立ち寄った本屋で見かけたが、一週間ほど悩んで購入。
新刊を買うのも久しいが、倉橋由美子を読むのも久しい。
どうやら晩年の頃の作品らしく、「入江さん」から展開されるキャラクターシステムが登場する。
主人公は、「入江さん」の孫にあたる「慧君」である。
どうしようもないほどのお金持ちである上に、美青年で、酒に強くて、女性はよりどりみどりだ。
そう説明すると、男性原理的なファンタジーかと言うと、そうではない。
慧君が九鬼さんに勧められる酒に酔って、非現実的な世界を彷徨う、といっても何も説明していない。
そもそも、登場人物達は人間であることすら怪しい。
縦横無尽に繰り出される和歌や漢詩本歌取りだって、全て判っているわけでもない。
何か面白いのかと聞かれても上手く答えられない。
ただ、この本に納められた各短編の物語の筋や、設定などどうでもよくて、ましてやそこに意味など求めるのは、愚の骨頂なのだろう。
ただひたすらに没入して読み耽って、倉橋由美子的な小説世界に酔いしれることこそが、この本の楽しみ方なのだと思った。
これもまた、小説でしか為し得ないことなのだと思う。


完本 酔郷譚 (河出文庫)

完本 酔郷譚 (河出文庫)