久しぶりに立ち寄った本屋で見かけたが、一週間ほど悩んで購入。
新刊を買うのも久しいが、倉橋由美子を読むのも久しい。
どうやら晩年の頃の作品らしく、「入江さん」から展開されるキャラクターシステムが登場する。
主人公は、「入江さん」の孫にあたる「慧君」である。
どうしようもないほどのお金持ちである上に、美青年で、酒に強くて、女性はよりどりみどりだ。
そう説明すると、男性原理的なファンタジーかと言うと、そうではない。
慧君が九鬼さんに勧められる酒に酔って、非現実的な世界を彷徨う、といっても何も説明していない。
そもそも、登場人物達は人間であることすら怪しい。
縦横無尽に繰り出される和歌や漢詩の本歌取りだって、全て判っているわけでもない。
何か面白いのかと聞かれても上手く答えられない。
ただ、この本に納められた各短編の物語の筋や、設定などどうでもよくて、ましてやそこに意味など求めるのは、愚の骨頂なのだろう。
ただひたすらに没入して読み耽って、倉橋由美子的な小説世界に酔いしれることこそが、この本の楽しみ方なのだと思った。
これもまた、小説でしか為し得ないことなのだと思う。
- 作者: 倉橋由美子
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2012/05/08
- メディア: 文庫
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