雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

虐殺器官/伊藤計劃

気になっているのに、手を出さない本がある。
なぜ手を出さないのかは、自分でもよく判っていない。
この本もまたそうだ。
何年も前から知っていて、評判もすごく良いのを知っていたのだけれど、手を出さないでいた。
図書館で見かけて、借りてみようと思ったのは気の迷いだったのだろうか。
物語の粗筋なんてここでは書かない。
一人称で語られる、近未来のSFであり、ミステリーであり、言語に関する思考なのだと思った。
自分の好きな作家達に引きつけて言えば、J・G・バラード的な終末観と、ウィリアム・S・バロウズの言語ウィルス説を連想させる。
タイトルはさしずめ、アントナン・アルトーの「器官なき身体」だろうか。
淡々とした語り口と、凄惨な戦争描写の陰には、幸福とは何かを思考するナイーブさが隠れているようだ。
読んでしまった今、凄い小説だったと語るのは、あまりに月並みだし、かといって否定する言葉を持たない。
「虐殺の文法」というモチーフ自体が、卓越したセンスだと思った。
つまりは、夢中になって読んで、感化されている自分がいる。
だから読まないほうが良かったのかもしれない。


虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)