東京に大雪が降ったことと、この本を読み終えたことは何の符牒だろうか。
いや何の符牒でもない。
久しぶりに読み返してみて、実にあざとい物語だ、と思った。
いまさら言うまでもないことだが、どうしても言いたくなるぐらいだ。
「豊饒の海」と題した連作全体は、本多繁邦を軸に夢と転生の物語が展開する、という構想である。
第一巻では松枝清顕と綾倉聡子の悲恋の末、聡子の出家と清顕の死を以って、物語は閉じる。
独立した物語としての部分と、第二巻以降の物語の伏線となる部分が、モザイクのように顔を出す。
輪廻転生や阿頼耶識といった仏教的な概念が紛れ込む。
松枝清顕の恋愛は、禁忌と侵犯、或いは、過剰と蕩尽といった、バタイユ的とも思える概念が借用される。
一方で没落する華族的な生活や雰囲気を、華やかな文体で描写してゆく。
あれもこれもと手を伸ばしてしまうものだから、全体としてはどうしても散漫な印象を否めない。
だがそれでも読ませるのは、やはり三島由紀夫ならではのあざとさであり、ポップさなのだと思う。
糞味噌に何でも取り込んで、自分の文体を押し通す。
それはまるで、日本の歌謡曲、あるいはJ-POPと言われる音楽のスタイルと瓜二つなのだ。
- 作者: 三島由紀夫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2002/10
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