雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

春の雪 豊饒の海・第一巻/三島由紀夫

東京に大雪が降ったことと、この本を読み終えたことは何の符牒だろうか。
いや何の符牒でもない。
久しぶりに読み返してみて、実にあざとい物語だ、と思った。
いまさら言うまでもないことだが、どうしても言いたくなるぐらいだ。
豊饒の海」と題した連作全体は、本多繁邦を軸に夢と転生の物語が展開する、という構想である。
第一巻では松枝清顕と綾倉聡子の悲恋の末、聡子の出家と清顕の死を以って、物語は閉じる。
独立した物語としての部分と、第二巻以降の物語の伏線となる部分が、モザイクのように顔を出す。
輪廻転生や阿頼耶識といった仏教的な概念が紛れ込む。
松枝清顕の恋愛は、禁忌と侵犯、或いは、過剰と蕩尽といった、バタイユ的とも思える概念が借用される。
一方で没落する華族的な生活や雰囲気を、華やかな文体で描写してゆく。
あれもこれもと手を伸ばしてしまうものだから、全体としてはどうしても散漫な印象を否めない。
だがそれでも読ませるのは、やはり三島由紀夫ならではのあざとさであり、ポップさなのだと思う。
糞味噌に何でも取り込んで、自分の文体を押し通す。
それはまるで、日本の歌謡曲、あるいはJ-POPと言われる音楽のスタイルと瓜二つなのだ。


春の雪―豊饒の海・第一巻 (新潮文庫)

春の雪―豊饒の海・第一巻 (新潮文庫)