この本もまた図書館で借りた。
5人の登場人物たちがやり取りする手紙で構成された小説である。
いかにも判りやすいように人物設定されており、また話の筋が判りにくいという事もない。
二組のカップルを巡るスラップスティックであり、残る一人は狂言回しといった役回りだろうか。
この小説においても、三島由紀夫のポップさというのは遺憾なく発揮されている。
おそらく18世紀フランス的な書簡体小説をモデルに、1960年代的な風俗を織り交ぜながら、作者が冒頭と最後に登場し手紙の書き方について解説するという体裁は、過剰なサービス精神ではないだろうか。
TV番組でたとえて言うなら、「旅」「温泉」「グルメ」では飽き足らず「ペット」と「人情」と「お宝発見」までくっつけたようなものだ。
しかし、その俗悪さそのものが、三島由紀夫的な魅力に他ならない。
本来的には古典派であるにも拘らず、市場に目配りしたような要素を付け加えてしまう。
しかも、過剰なまでのサービス精神が、作品を作品自身のパロディへの横滑りさせてしまう。
この本は、三島由紀夫の俗悪なポップさが遺憾なく発揮された快作だと思った。
- 作者: 三島由紀夫
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1991/12/04
- メディア: 文庫
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