雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

旅の時間/吉田健一

少し前に手に入れてたのだが、やっと読み終えた。
吉田健一の連作短編集である。
何となくではあるが、この本を良いと言ってしまうことは悔しいのだ。
読み通してみると「旅の時間」というタイトルも納得である。
この本には、生死にかかわるような大問題も無ければ、苦悩や葛藤といった心理的な窮地も無い。
淡々と流れる時間と、非現実的な出会いや事件、記憶としての戦争がある。
どこか他人事のようでいて、それは紛れも無く自分の時間であるというような在り方は、吉田健一の文体に良く似合う。
そんな吉田健一的なスタンスも文体もスノビズムなのだと思うのだが、共感している自分がいるのも否定できない。
こっそり読まれるべき作家、作品なのではないだろうか。
だから読んでみた方が良いなんて言わない。
誰かに薦めようとも思わない。
だが時々こっそりと読み返してみたくなる、そんな本だと思う。


旅の時間 (講談社文芸文庫)

旅の時間 (講談社文芸文庫)