ふとこの本のことを思い出して本棚から取り出した。
寺山修司の書いた紀行文である。
副題に「日本呪術紀行」とあるのは、サービスのような気がする。
日本の奇習、伝承を訪ね紹介する、という態を取りながら、その背後にある人々の姿を浮かび上がらせようとしているように思った。
それぞれの場所で、寺山修司が受け入れられているとは思えない、むしろ共同体の外部の人として疎んじられているような場面が度々出てくる。
しかし寺山修司もまた、その奇習や伝承の背後にある人々の欲望を暴こうとしているように見える。
しかも所々に寺山修司の虚構を交えた思い出話が混じってくるので、厄介な文章である。
持っている中公文庫は1990年版だが、もともと出版されたのは1974年なので、たぶん70年代初頭の日本の姿がここには捉えられている。
70年代の日本について語られることは、思い出話以外では少なくなってゆくだろうと思うと、少し感慨深いものがある。