雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

熱帯のシトロン/松本次郎

時代設定としては、ベトナム戦争の頃、'60後半〜'70前半辺りだろうか。
自称カメラマンだが、ドラッグでラリって、女と寝て、借金取りに追い回されている主人公・双真が、謎の女・魔子に誘われるように三月町へと迷い込む。
そこは、人々は『ウサギ』に魂を売り渡してしまい、『ウサギ』が支配するドラッグの製造工場で奴隷のように働いている。
だが、三月町は元々、魔女の支配するこの世ではない場所だったのだが、魔子の母が『ウサギ』に騙されてしまったのだ。
しかし、魔子の母の予言によると、カーニバルの日に三月町の人々と魔子の母を騙した報いを受けて、『ウサギ』は生贄として狩人に狩られる、という。
そして、今年のそのカーニバルまで、あと10日ぐらいという頃に物語は始まる。
粗筋を書いてみるだけでも、荒唐無稽でイカレたストーリーが、ちょっと奇妙な登場人物たち(上記の他にも、『馬』、麦子、ジャバウォッキ革命軍、『学者』なんてのも登場する)によって、徐々に明かされてゆく。
松本次郎の描くちょっと汚い線と薄暗い画面構成、読者サービスっぽい性的表現、ラリっている状態を表す泡の表現、現実と幻覚の境目なく続く断片的なコマ割、そういったものが何だか蒸し暑いような物語の雰囲気を盛り上げている。
ベトナムだとか、革命だとか、その時代そのものを回顧するノスタルジーではなく、それらの記号が表している時代を再構成する幻想譚と言ったら、言い過ぎだろうか。
何だか鬱陶しいような熱に浮かされているようなこの物語は、たまに触れたくなるのだ。


熱帯のシトロン―Psychedelic witch story (Vol.1) (F×COMICS)

熱帯のシトロン―Psychedelic witch story (Vol.1) (F×COMICS)

熱帯のシトロン―Psychedelic witch story (Vol.2) (F×COMICS)

熱帯のシトロン―Psychedelic witch story (Vol.2) (F×COMICS)