東京
暇に任せて、久しぶりに杉浦日向子を読み返す。 この本は全国の銭湯を巡り、そこで出会った人(老若男女)、銭湯内(女湯)の様子、酒や美味いもの、などが面白可笑しく語られる。 銭湯や町の歴史のようなものも少し触れられる。 ちょっとふざけ過ぎている面…
気になったので借りてみた。 都内を中心に関東近郊も含め、各神社の狛犬の写真集である。 江戸初期から現代までを、大きく4つに分けて分類し、その特徴を解説している。 もともと作者という概念が無く、製作された地方の特徴が出ている江戸時代の狛犬の方が…
神田の小間物屋の女将さんの日記を、大正時代の無名の作家が現代語訳した本が、自宅の屋根裏で見つかった、という物語。 額縁小説の体で、江戸の町民の1年間の生活が描かれる。 日常が描かれるから、特段のドラマチックな展開があるわけではない。 どちらか…
深夜ラジオで、著者がパーソナリティを務めている番組があって、夜中に目を覚まして何度かうつらうつらと聞いたことがある。 この本は150頁ほどで、あっという間に読めたが、内容は何とも消化しがたい。 読んで思い出したのは、田口賢司「ボーイズドントクラ…
坂本龍一氏の自伝である。 とはいえ、2009年に語っているので、それ以降の3.11や闘病生活等は語られていない。 知っていらエピソードもあれば、知らなかったエピソードもある。 こうしてまとめて読んでみて、坂本龍一氏は劣等感に対して色んな努力をして成し…
西村賢太氏からの流れで藤澤清造を知る。 私小説というか、狂人をモデルにした独白体の小説、といえばいいのか。 主人公が自殺してしまった友人の話を、友人の兄に語るのが大半で、そこに主人公の独白が交じる。 友人の奇行は、ある種、ユーモラスに描かれる…
引き続き、西村賢太氏を読んでみる。 江戸川区の出身で、たぶん歳は少し上、バブルや東京の西とは距離のある感じで、なんとなく近しい感じがする作家が、どんな東京を見ていたのか気になった。 取り上げられている町、語られる言葉、どちらも私小説作家らし…
初めて読んだ。 名前は知っていてもなかなか手が伸びなかったのは、私小説だからに他ならない。 私小説というサブジャンルは昔から何となく遠ざけていた。 内面の吐露という、作者のはらわたを見せられているような文章は、つい好きか嫌いかで判断してしまっ…
以前読んだことがある気がしていたのだけれど、実は初見かもしれない。 ねじめ正一氏を知ったのは、10代の頃だと思う。 当時は現代詩を読み漁っていたので、自然と辿り着いたと思う。 とはいえ、詩と小説は全く異なっている。 記憶の中の印象ではあるが、句…
この本も図書館で借りてみた。 何となく旅の本が読みたいと思った。 壮大な旅行記ではなく、小旅行のエッセイみたいなものが読みたいと思った。 この本は東京に残る江戸の痕跡をめぐるエッセイである。 写真も美しいが、江戸文化への切り込み方が鋭いと思っ…
久しぶりに読み返してみた。 以前読んだ時も思ったけれど、幸田文の文章は昔の東京のしゃべり言葉に近い感じがする。 親の世代というより、祖父母の世代の言葉のようだ。 中盤で後の平成天皇のご成婚の話題が出てくるので、1959年に初出の文章なのだと分かる…
星野博美を知ったのは、このブログをはてなに引っ越した頃に見ていた、とあるブログだったと思う。 そのブログがどこだったかもう覚えていないが、おそらく同年代だろうと思われるブロガーが、星野博美にシンパシーを寄せていたのを覚えている。 かれこれ10…
幸田文の短編小説集である。 随筆での語りが小説世界では制約になって、どの登場人物も作者の分身となってしまうのではないか、という漠とした不安のようなものがあったのだが、それは杞憂だった。 表題作の「台所のおと」に描かれる料理人を始め、様々な人…
とても奇妙な物語だ。 主人公は美人だが金銭感覚の無い妻と、スポーツジムのインストラクターでカッコイイ事が判断基準の夫、という組み合わせだ。 まず目につくのは、二人共、会話が恐ろしく短い。 ほとんど単語で会話をして、自分語りなどしない。 だが、…
この本のまた図書館で借りた。 ねじめ正一が現代詩の詩人であることと、松浦寿輝が詩人であったことは、少し違う気がする。 二人とも1980年代の頃に散文詩作品があり、当時は読んでいた。 私自身は松浦寿輝の方が好みだったが、この作品を読むと、ねじめ正一…
以前、文体が似ていると診断されたことがある海野十三を読んでみる。 戦争中の日本の人々の姿を描いている。 市街地の空襲が、まるで見てきたかのように書かれているが、この作品が発表されたのは、昭和8年である。 どこかで見聞きした情報を、東京の上に展…
いつも見ていない本棚の端にあったので、引っ張り出して眺める。 誰も写っていない東京の街の写真集。 銀座、渋谷、新宿、池袋、青山、お台場、芝浦、どこにも人がいない。 普段は人が溢れかえっている繁華街に、人がいないということの違和感。 たぶんそれ…
この本は、杉浦日向子にしては珍しいエッセイ漫画である。 YASUJIとは明治初頭の浮世絵師の井上安治のことだ。 たまに小林清親は見かけることがあっても、その弟子の井上安治はあまり見かけない。 井上安治の描く東京は、あっけなくて、画者の存在が見えない…
本を読むペースが落ちているのは、寝不足が続いているからだ。 寝不足なのは、残業が続いているからだ。 この本はあまりにも有名だから、内容を改めて解説することもないだろう。 読みながら思ったのは、荷風は何を見ていたのかということだ。 現在から過去…
この本は、内田百けんによる、昭和19年11月1日から昭和20年8月21日までの日記だ。 改めて読み返してみると、簡潔な文章ながら、とても生々しい。 東京の街の上空に、アメリカの爆撃機が飛来し、焼夷弾を落としてゆく。 あちらこちらから、爆撃音と火の手が上…
何となく図書館で借りてみた。 筆者は永井荷風の「墨東綺譚」の挿絵で有名だそうだ。 綴られるのは、明治から昭和30年辺りの東京への回想なのだが、正直なところ、生まれていない頃の話なのでいまひとつ実感が湧かない。 河岸がコンクリートで固められる前の…
かつて佃島へは渡しに乗って行ったのだそうだ。 私が生まれる数年前に、その渡しは廃止になったらしい。 佃島という場所は、もともと漁師町であった。 その漁師町としての景色が、尾崎一郎氏の写真によって収められている。 東京のほぼ中心に位置しながら、…
学生の頃に友人たちとした話に、 「東京と言ったらどこを思い浮かべるか?」 というのがある。 横浜方面の友人は渋谷と答え、多摩方面の友人は新宿、埼玉方面の友人は池袋と答えていた。 北関東から東北出身だったら上野や浅草とでも答えただろうか。 自分の…
図書館で何となく借りてみた。 例えばこういった随筆を読んでいると、作者の生活がふっと見えるような気がする時がある。 そのイメージが合っているのか判らないが、自分の中の過去の映像と重なるように見える。 そこには作者の生活や思いが入っているからだ…
図書館で借りてみた。 川上弘美氏はこれで三冊目ぐらいだろうか。(めんどくさいから数えない) 場所をめぐるエッセイである。 この本もまた、さらりと読み流せる。 自分の場所なるもの、それについて書くのかと思いきや、するすると別の方向に滑り出してい…
本屋で立ち読みして、鶏を絞める件を読んで、ちょっとだけ気になったので図書館で借りてみた。 豊田正子氏の「綴方」の授業の成果を本にまとめたもののようだ。 拙い文章だったのが、みるみる長さが伸びて行き、表現が豊かになってゆく。 事実の羅列だったと…
ちょっと気になっていたので図書館で借りてみた。 明治時代の東京の貧民窟、つまりスラム街に入り込んでルポルタージュした本である。 当時の三大貧民窟が、下谷万年町(今の上野駅から鶯谷に向かった東側の一角)、四ツ谷鮫ヶ橋(信濃町と四ツ谷の間、赤坂…
ふと、吉本隆明氏の歯切れの良い文章に触れたくなる。 この本は、吉本氏が過去について触れた、雑多な文章を集めている。 あとがきによると、担当者の小川哲生氏の編集力も素晴らしいようだ。 吉本氏自身でも語っているように、ある種の自伝のようでもあり、…
めっきり涙もろくなったものだと思う。 この本は、島尾氏が東京都江戸川区小岩に住んでいた頃の、家族の思い出を中心にした短篇が収められている。 島尾氏の特徴でもある、現実と幻想の境界の薄明を記述するような文体は控えられ、些細な日常が愛おしく、ま…
町田康氏は、確か「夫婦茶碗」を読んだのだけれど、ピンと来なかったと思う。 だが今回読んでみようと思ったのは、鬼海弘雄氏の写真が併せて収められていたからというのもある。 また、東京をぶらぶらと彷徨うような内容に思えたので、図書館で借りてみるこ…