これは予言なのだけれど、「コロナの頃は良かった」と言い出すやつがきっと現れる。
「昭和は良かった」と言ってるのと同じ口調で、COVID-19のパンデミックについて、良い思い出かのように回想する。
それが何だったのかを考えること無く、ただの出来事として、そして生き延びた幸運だけを噛み締めて、あの頃は良かった、またはあの時は大変だった、とぬけぬけと言うだろう。
過去から繰り返される疫病の流行の一つとして語るのもまた、分かったようなふりで何も考えていないだろう。
ジョルジョ・アガンベンはイタリアの哲学者で、この本は2020年に発表された論説を収めている。
この本でアガンベンが繰り返し主張するのは、パンデミックで露わになったのは、民主主義国家が市民の自由を意のままに制限することができたということだという。
それは人間というものを、生物的な存在として縮小し、それを守るという名目で政府は自由に制限をかけることができる、という前例を作ってしまったということを意味しているという。
移動の自由、集会の自由が制限され、感染者の葬儀を行えないという死者への尊厳が奪われたことが、何を意味しているのか、法学的、政治学的に考察するならそれは正鵠を得ていると思う。
イタリア国内の事情を前提に書かれているので、日本と異なる部分もあるのだが、日本で言うと繰り返された非常事態宣言、飲食店への営業制限、ソーシャルディスタンス、そういった規制が政府から繰り出されたのもあるが、ヒステリックなマスコミの報道、自発的に飲食店への妨害、マスクをしていない人への嫌がらせ、などが発生してたことは、先の戦時下でも同じような事が起きていたんだろうなと思わざるを得ない。
やがて忘れ去られ、規制をかけられた可哀想な市民がとか言い出して、規制下でも楽しいこともあった、あの頃は良かった的な事を言うだろうと思うのだ。
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