本のタイトルが、その内容を裏切らない。
鄙びた、といえば聞こえが良いが、この本に出てくるような宿屋に泊まってみたいとは思わない。
観光という種類の旅ではなく、日常からの逃避というのに近いようだ。
それまでの日常を捨てて、ひっそりと塵に埋もれるような、静寂と退屈の中へ身を潜めるような暮らしへと憧れているようだ。
一見、つげ義春氏自身の漫画の世界のようにも錯覚するが、聊かずれがある。
作品と作者は別なのだから、そのずれは当たり前で、むしろ体験を作品へと結実させるところに、作者の技量を感じる。
さらには、そのずれすらも、本来あるべきでないモノ、と思わせるのは、作者の好きな私小説の応用とでも言うべきだろう。
- 作者: つげ義春
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1995/03/29
- メディア: 文庫
- 購入: 2人 クリック: 70回
- この商品を含むブログ (50件) を見る