ナジャは不思議な物語だ。
ナジャその人は不思議ではない。
ナジャは、プルトンが一目惚れしたちょっとエキセントリックな、言動が目立つ若い女というだけの気がする。
惚れた者の弱みであれやこれや翻弄されているブルトンだが、相手を神格化させたせいで、ナジャの奇行も先鋭化しているようにも思える。
だが、ブルトンから500フランを恵んでもらったが故の、ある種のサービスのようにも思えてしまう。
二人がどんな関係にあったのか、それはどうでもいいことで、二人の付き合いからブルトンが汲み出した「美」に関する考察こそがこの小説の要のように思う。
では「美」とは何か、がナジャによって啓示されたのであろうか。
もし、そうであるなら、ナジャとの出会いによって発見された美は、別離ととも変質するのではないだろうか。
ブルトンはナジャの痕跡を追い求めているのであって、ナジャそのものではない。
全ては思い出の中に存在し、思い出以外の場所には存在しない。
それを「痙攣的」と言うのはどういうことなのか。
つまるところ「一目惚れ」という事だけなのかもしれない。
ナジャ (岩波文庫 赤590-2) [ アンドレ・ブルトン ]
- 価格: 1100 円
- 楽天で詳細を見る