雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

インド夜想曲/アントニオ・タブッキ

例えばあなたが、何か読んだことも無いような本を探して、本屋を彷徨っているとする。
新刊やベストセラーが読みたい、という気分ではない。
何となく背表紙を拾い読みしている。
海外文学でも、英米独仏の辺りは、何となく聞いたことがある作家ばかりだ。(ということにしようか)
そんな中で「インド夜想曲」というのが、眼に留まる。
「インド」と「夜想曲」、ちょっと妙でもあり、ちょっと惹かれる。
なぜかイタリア文学のコーナーである。
手にとって扉をめくると、モーリス・ブランショの言葉が引用されている。
著者はアントニオ・タブッキだが、名前も知らない。


もうそれだけで、直感的に読んでみたいと思わないだろうか。
この本との出会いは、そんな偶然であったことを記憶している。


さて


物語は、主人公が失踪した友人を探してインドを旅をする。
著者が書いているように、この本は不眠の本であり、旅の本である。
物語の構造自体が、この本の魅力のひとつであるので、ここで詳しくは書かない。
12のエピソードが何かを暗示しているようでもあり、していないようでもある。
そもそも、友人を探しているのか、いないのか、探しているのは友人なのか、あるいは…
だが読み通してみると、「はじめに」に書かれている言葉や、それぞれのエピソードの意味が判ってくる。
というより判ってくるような気がする。
明示はされない。
意味ありげに仄めかされる。
そして、だんだん茫洋とした感じにつつまれてしまう。
それは幻想的とかいうのとは異なる。
癒しという言葉とも違う。
だが、この本でしか味わえないものがここにあるのだ。


インド夜想曲 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

インド夜想曲 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)