久しぶりに何となく読み返す。
芥川賞を受賞した時は大学生の頃で、当時の友人から薦められて読んだ。
当時、読んでどう思ったのか覚えていない。
だが、単行本は今でも本棚に眠っているだろう。
表題作「スティル・ライフ」と「ヤー・チャイカ」の2編が収められている。
物語の粗筋について語っても意味が無いので書かないが、両方とも男二人の織り成す物語だ。
「スティル・ライフ」は主人公ととあるきっかけで知り合った年上の友人の奇妙な仕事の手伝いと、世界の見え方についての推察である。
「ヤー・チャイカ」も主人公ととあるきっかけで知り合ったロシア人からの、奇妙な仕事の勧誘と世界の喪失についての推察であり、そこに主人公の娘の空想が挿入される。
どちらも主人公の内面にも、主人公を取り巻く世界にも、劇的な物語は展開しない。
それは主人公のスノビズムとして捉えることもできると思う。
この本を薦めた友人は、反時代性を標榜し、浮かれていた学生生活をどこか鼻でせせら笑うような態度だったと記憶している。
そう書くと、とても嫌な奴のように見えるかもしれないが、知的で話も上手く、女性にも人気があるという、ちょっと変わった奴というぐらいだ。
互いにお前は変わってるよというのが、自分も含めた友人同士の評価なので、あてにはならない。
本を薦めた彼も、薦められた他の友人も、スノビズムを軸に評価していたと思うが、改めて読んでみると、そうでは無いような気がした。
というのは、主人公が遭遇する年上の友人の奇妙な仕事も、ロシア人から勧誘される奇妙な仕事も、不穏な内容であり、主人公の人生を左右しかねない誘惑で、それに対して主人公の心は揺れ動くのだが、一方で到達しえない何かに遮られている。
主人公たちにとって到達しえない世界が、既に自明なものとして立ち現れているので、物語は展開しようがない。
冒頭での主人公の独白に寄せた作者のつぶやき、本の最後に主人公の娘の空想に寄せた作者のイメージが、主人公たちが到達しえない世界の姿であり、物語を押しとどめてしまうイメージなのではないだろうか。
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