西東三鬼の名前は、現代俳句を漁っていた頃に知り、戦前の京大俳句事件や、現代俳句の表現を知るきっかけとなった一人である。
とはいえ、朝日文庫の「現代俳句の世界9 西東三鬼集」を読みかけた程度で、深く掘ってはいなかった。
そもそも現代俳人の句集が本屋の店頭に並んでいることも少ないし、かといって俳句雑誌を定期購読するほどまで、のめり込んでもいなかった。
青空文庫に「女靴下の話」「秋の暮」というエッセイが収録されているのを見つけてダウンロードしたこともある。
ふと何の拍子だったか、新潮文庫からこの本が出ているのを知り、購入した。
昭和17年、第二次世界大戦下の神戸の奇妙なホテル兼アパートでのエピソードが語られる。
エジプト人、台湾人、中国人、朝鮮人、ドイツ人、そして夜の街で働く女たち、物資や食べ物に困りながら生き延びていく姿と別れのエピソードが綴られる。
著者本人が「フィクションではない」と言っているが、フィクション以上に(いささか不謹慎ではあるが)面白い文章である。
改めて朝日文庫の年譜でこの本を確かめてみようと思ったら、朝日文庫に収録されていた。
何のことは無い、読了していなかったので、気づいていなかったのだった。
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