雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

トリエステの坂道/須賀敦子

仕事帰りにふらっと図書館に寄って何となく借りてみたうちの一冊。
須賀敦子氏はアントニオ・タブッキの翻訳で知った。
この本は須賀氏自身がイタリアに暮らしていた頃の思い出であり、その後も含めた家族のエピソードを基にしたエッセイである。
その筆致は静謐でありながら、家族それぞれの輪郭のようなものがくっきりと浮かび上がる。
亡くなってしまった夫のこと、子供4人のうち3人までを亡くしてしまった姑のこと、義弟とその妻と甥のこと、須賀氏によって描かれるイタリア人の家族たちが、まるでどこかで見かけたようなリアリティを持って伝わってくる。
フィクションのような出来事は起こらず、こともなく続く日々と、家族ならではの細波のような出来事が連なる。
それぞれの出来事は、決して軽いということではない。
貧困や売春といった話も出てくる。
当事者たちにとっては、人生の出来事として避けることもできない。
だが、須賀氏の筆致で描かれると、それらのエピソードが静謐な輝きを帯びるように思った。
なんでもないふとしたことも、人生の転機のような出来事も、静かな風景画のように配置される。
こういった文章を書けるようになりたいものだと思う。


トリエステの坂道 (新潮文庫)

トリエステの坂道 (新潮文庫)

借りたのは新潮文庫そういえば白水社のuブックスにも入っていたっけ