バロウズやギンズバーグの人となりについて、ここで書くのは止めておこう。
この本は何かというと、ラブレターであり、そして、旅行記でもある。
1953年にバロウズがパナマ、コロンビア、ペルー、エクアドルを放浪し、イェージを探し、いかがわしいところに出入りをし、南米についての悪態をつきまくる。
圧倒されるイェージ体験の描写や、甘酸っぱい過去のコイバナ(同性愛の)なども詰め込まれ、だが、基本的に旅先からバロウズがギンズバーグへ送ったラブレターなのだ。
そしてその7年後の1960年に、ギンズバーグはペルーを訪れ、アヤウァスカ体験をし、精神の高みへの上昇の予感を抱き、バロウズへの思慕を綴る。
だが、バロウズからの返事はギンズバーグの期待していた答えとは異なったのではないだろうか。
ドラッグ体験など子供騙しに過ぎない、とでも言わんばかりにカットアップを理解しろ、という激越な返事だ。
7年前のイェージを探し回った頃のバロウズとは、まったく異なっている。
更に3年が過ぎる。
互いの思慕は変わらないようだが、2人は既に別の状態に変化している。
明確に書かれはしないが、ドラッグ体験が意識の拡大やその他、スピリチュアルな変化をもたらす、というある種の神話を否定しているのだと思う。
恐らく、バロウズはカットアップの作業の何かに、ギンズバーグは詩作の何かに見出したのだろう。
最終的な1963年の書簡は、そのままちょっとした作品であるかのようだ。
結局のところ、ドラッグ体験では得られない詩の、或いは文学の(と言ったほうが良いのだろうか)本質を二人は掴み取ったのだ。
だからこそ、バロウズの書簡の終わりは
「日よけのはためくパナマの思い出よ、くたばれ」
なのだと思う。
単に麻薬を礼賛するのではなく、その向こう側へ突き抜けていった記録なのだ。
ちなみに、「麻薬考」と題する諏訪優氏の文章が付いているが、これは的外れな解説だと思った。
バロウズが探し回ったり、ギンズバーグが陶酔した麻薬は、否定されるべき過程に過ぎないのだから。
- 作者: ウィリアム・バロウズ,アレン・ギンズバーグ,飯田隆昭
- 出版社/メーカー: 思潮社
- 発売日: 1986/05
- メディア: 単行本
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ブライオン・ガイシンがブリオン・ギシンだったり、マリファナがマリュアナだったりする。
- 作者: ウィリアムバロウズ,アレンギンズバーグ,William S. Burroughs,Allen Ginsberg,山形浩生
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2007/09/04
- メディア: 文庫
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