雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

ヴァニラの木/ジョルジュ・ランブール

これもまた「小説のシュルレアリスム」シリーズの一冊。

ブルトンの「シュルレアリスム宣言」にランブールの名前は出てくるのだが、実際日本語で読めるのはこの一冊だけではないだろうか。

思潮社シュルレアリスム読本の中にも、人物録に名前はあるものの、作品の紹介はなかったと思う。

 

冒頭にメチニコフの「人性論」から、ヴァニラの人工授粉方法の発見について、やや長い引用があり物語は始まる。

とある植民地の島における栽培農園の一家と、オランダのチョコレート商人、そして農園に出入りする黒人奴隷が主な登場人物である。

実の成らないヴァニラの木、やがて主人公の少女の乳母である黒人女性の妊娠騒ぎと、農園に出入りしていた黒人奴隷の夜這い騒ぎが島に起こり、ヴァニラの人工授粉方法の比喩でもあり、夜這いの比喩でもある。

夜這いをした黒人奴隷は捉えられてチョコレート商人に引き渡され他へ売られてゆく手はずになるが、引き換えに授粉用に輸入したハチドリたちは大半が死に、島はヴァニラの実によるまだ見ぬ富へと興味が移り、主人公の少女はアムステルダムへの寄宿舎への期待によって、物語は閉じる。

ヴァニラの木、その人工授粉方法と夜這い騒ぎの暗喩、そして豊かな生活を渇望する植民地のドタバタが物語の中心なのだと思う。

ランブールのこの物語におけるシュルレアリスムとは、この暗喩なのではないだろうか。