雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

暗黒寓話集/島田雅彦

個人的に島田雅彦ブームが来ているので、最近の短編集を借りてみた。

暗黒というのは、いささか諧謔味のあるタイトルだと思う。

とはいえ、心温まるような話ではなく、ちょっと斜に構えていたり、ちょっと不気味であったりする短編が収められている。

一つ一つについて細かな解説はしないけれど、東京西部、それも南西方面が舞台が多いのは、特徴的かもしれない。

高度経済成長期に生まれ育って、伝統や地域共同体から切り離されていて、マイルドヤンキー文化と共通するベースが多い、そんな背景から生まれてくる作品だと思った。

たぶん年代的には近しいのだけれど、異なる背景が見え隠れしているような気がする。

それよりある種の不協和音のようなものとして物語に組み込まれている死だとか過去だとかに、感傷的な身振りが全く無いとは言えないけれど、少し斜に構えて見ているようなところがあるように思った。

これらの物語が寓話としての意味を持つのは、その不協和音がゆえなのかもしれない。

欲が出ました/ヨシタケシンスケ

ヨシタケシンスケのエッセイ第二弾も併せて借りた。

なるほど分かる気もするイラストもあれば、それはどうだろうかというものもある。

著者というより、出版社が欲を出したのかもしれない。

文章での説明がないイラストだけのの方が良いものもあると思った。

入社式と「誰でもピカソ」の収録がダブルブッキングしてしまった話が、何となく心に残った。

そういう転機になったかもしれない出来事が、自分にはあっただろうか。

あったかもしれないが、忘れているような気もする。

 

思わず考えちゃう/ヨシタケシンスケ

図書館で読む本を探していて、ちょっと読んでみようかと手に取った。

名前も知っているし、子供向けの絵本を何冊か試し読みをしたこともあるが、ちゃんと読んだのは初めてである。

いまさら説明の必要も無いと思うが、絵本作家であり、エッセイストといって良いのだろう。

この本は、著者が書き貯めているメモを公開している。

ちょっとクスッとするようなものや、なるほどなぁといったものなど、小ネタが50編ほど収録されている。

軽く読み終える一冊であった。

 

スーパーエンジェル/島田雅彦

久しぶりに島田雅彦の「優しいサヨクのための嬉遊曲」が読みたくなって、家の本棚を探したけれど見当たらず、図書館に探しに行っても見当たらず、だったら最近の著作でも読んでみようと思って借りた。

舞台は近未来の日本と思われる国で、AIが人類を管理している。

そこでは人類は遺伝子によって「統治者」「守護者」「学者」「奉仕者」そしてそれらに分類されない「異端」に分けられ、「異端」は社会から排除され開拓地へを追いやられる。

「異端」であることを宣告された主人公と、AI搭載のロボットであるゴーレム3との対話から物語が始まる。

ここで物語の粗筋を書いてしまうと、この物語の半分以上を語ってしまうことになるのでこれ以上は書かない。

物語の要素としては、AI、量子、自由といったものが挙げられる。

舞台設定、世界観、主人公の背景など、説明を重ねたうえで物語が始まるが、あっさりと終わってしまう。

そして、この本には物語をベースにしたオペラの台本が収録されている。

これは小説として表現したいものではなく、オペラとして表現したいものなのかもしれない。

だが、最初から小説であることを志向していたのか、小説では表現しきれなくなってオペラに移行したのか、読了しても何だか収まりが悪い。

 

いのちの車窓から/星野源

星野源氏の本を読んだのは初めてであった。

もしかすると、どこかの雑誌でコラムなどを読んでいるのかもしれないが、覚えていない。

日常のことだったり、思い出話だったりするが、どれも自然なスタンスの文章だと思った。

巧拙を云々するような文章ではないが、SNSに垂れ流される言葉とは違う。

文章を書くようになったきっかけや、演劇、音楽への考えなど、なるほど面白いなと思うところもある。

星野源」という人となりに興味を持った。

ひとりビジネスの教科書/佐藤伝

何となく図書館で手に取ってみた。

定年という区切りがだんだん見えてきたのもあるし、世間的にも起業ブームがあると思うので、ちょっと知識を仕入れておくのも悪くないと思っている。

実際に起業するかどうかはまた別の話として、起業するためのポイントを知ることができた。

なるほどと思うポイントもあれば、ちょっと時代遅れな考えもある。

 

何もしない/ジョニー・オデル

何もしない、ということを主張する、というのはある種の皮肉めいたものだと本の始まりの方で著者も述べているが、「何もしない」ということを額面通りに、というか、自分の基準で受け取ってはいけない。

著者はアメリカのアクティビスト、ってことは活動家のようだ。

そういや偽名で入院してた70'sの日本の活動家が、本名を告白して逝去したニュースが最近あったっけ。

そんなことはともかく、どこかで勧められたので読んでみた。

あてにならないことで有名な某大手ECサイトのレビューで一つ星があるらしいので楽しみにしていた。

率直に言って読みやすい本ではない。

これだから活動家って奴は、とちょっとだけ思いながら読み進めて、読みにくいながらも言わんとすることが少しづつ分かってくると、なるほどと思うところはある。

まずは、アテンション・エコノミー、注意経済に対する抵抗がある。

SNSは際限なく時間を奪っていくことで成り立つ世界であり、垂れ流される大量の無関係な情報をスクロールさせている。

デジタルデトックスの話から、現実に対する解像度が上がる話が出てきたかと思うと、ヒッピーコミューンが挫折した話に移る。

ここではない別のコミュニティを夢想することは、絶対的な権力者と従順なメンバーに行きつくという分析が、皮肉めいた調子で語られる。

こんな調子でこの本の解説をしていくのは本意ではないので、いったん止めるが、読みにくさの原因は、著者の思考の流れで書かれた随筆だという点であるように思った。

主張したいことに対して、論理的には書かれていない。

こういうことがあってこう思っている、こう思うことはこういうことでもあり、またこういう意味もある、といった調子に、曲がりくねった一本道を歩くような本である。

全てに同意できるものではないが、アテンション・エコノミーに対する抵抗というのは、心に留めておいた方が良いと思った。

言うまでも無く人生は有限であり、残された時間の長短はあれ無限ではないのだから、無駄な情報をスクロールしてもそこには有益なものなど皆無だし、分かりやすコンテキストには気を付けた方が良い。