いまは無いものを懐かしむということ
- 作者: 川本三郎,武田花
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1998/03
- メディア: 文庫
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この本を買ったのはだいぶ前だが、この本に収録されている内容はさらに前の、バブル期以前のようだ。この本で著者は東東京のあちこちを散歩し、その印象やエピソードなどを記している。ここにあるのは何だろうかと考えてしまう。
路地が多い、商店街がある、古本屋や銭湯、といったところがキーワードなのだが、そういったものを、「古き良き」象徴としてしまう雰囲気は嫌いだ。この本の著者は、明確にはそうは言っていないと思う。だがそう取られかねない無防備な記述が多い。
常々思っていたのだが、荷風的な今は無き物だけを愛しむような退廃と、昭和ノスタルジーは同じことだと思う。そんなに昔が良かったり、取り残されているような町が好きなのなら、そういうライフスタイルを取ればいいのであって、それは美的でも倫理的でもない。荷風はそれを踏まえた上で、耽溺するからこそ文学的なのだと思う。この本の著者はそこまでの退廃が無いように思える。
メディアから垂れ流される昭和ノスタルジーの薄気味悪さは何とも言い難い。