雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

私の東京町歩き/川本三郎


いまは無いものを懐かしむということ

私の東京町歩き (ちくま文庫)

私の東京町歩き (ちくま文庫)


この本を買ったのはだいぶ前だが、この本に収録されている内容はさらに前の、バブル期以前のようだ。この本で著者は東東京のあちこちを散歩し、その印象やエピソードなどを記している。ここにあるのは何だろうかと考えてしまう。
路地が多い、商店街がある、古本屋や銭湯、といったところがキーワードなのだが、そういったものを、「古き良き」象徴としてしまう雰囲気は嫌いだ。この本の著者は、明確にはそうは言っていないと思う。だがそう取られかねない無防備な記述が多い。
常々思っていたのだが、荷風的な今は無き物だけを愛しむような退廃と、昭和ノスタルジーは同じことだと思う。そんなに昔が良かったり、取り残されているような町が好きなのなら、そういうライフスタイルを取ればいいのであって、それは美的でも倫理的でもない。荷風はそれを踏まえた上で、耽溺するからこそ文学的なのだと思う。この本の著者はそこまでの退廃が無いように思える。
メディアから垂れ流される昭和ノスタルジーの薄気味悪さは何とも言い難い。