旅先で出会うエキセントリックな人、或いは思いもよらない出来事、そんな小説といえようか。
そして読点も無く続いてゆく文章は、ある種のうねりのようだ。
その文体のリズムに乗れれば、物語に酔うことが出来るかもしれない。
悪く言えば荒唐無稽な物語かもしれない。
だが、吉田健一の小説にリアリティを求めるのは、何か違うのだろう。
旅先で出会ったばかりの二人の会話は、何だか別の人格とは思えないし、起こる出来事だって、聊か出来すぎている感もある。
スパイ映画的なハプニングさえ、どこか嘘臭い。
そして積み重ねられる“今は失われてしまった”的な紋切り型の数々。
決して、吉田健一の小説が嫌いな訳ではないが、どこかに腑に落ちない引っ掛かりがある。
裏表紙のキャッチコピーにある「ゆとりある大人の小説」という表現で、一体何を言い得ているのだろうか。
むしろこれは、おとぎ話なのかもしれない、と思った。
だとすると、寓話に近いか、というと少し違うかもしれない。
だが、何かを込めているのではなく、さらっと書き流した感じの軽さのようなもの、それがおとぎ話と近しいのではないだろうかと思うのだった。

- 作者: 吉田健一
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/12/09
- メディア: 文庫
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