雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

ハーモニー/伊藤計劃

スマートウォッチがリアルタイムに人体の情報を収集し、クラウド上に集積して、AIが夕飯のオススメをプッシュ通知で知らせる、というのは既に現実である。

システムに接続すると健康が維持される世界は、徐々に現実に近づいている。

フーコーが告発した生権力が支配している社会は、反対意見もなく広がっていく。

この本の舞台になっている世界は、現実と地続きの風景であるため、そこで起こる事件はとてもグロテスクでリアルに見える。

作者が明日にでも起こりうるかもしれない未来を描いたのか、現実とテクノロジーがSFの想像力に追いついたのか解らない。

しかし、この本は「わたし」に関する考察でもある。

それぞれの「わたし」がいる限り、世界には平和もなく汚れている、と考えるのはカルト的発想に他ならないと思うが、それが本当に選択され得るのか、という思考実験でもあると思った。

最悪の結果があるならあいつはそれを選ぶだろう、という、まるでマーフィーの法則のように物語は転がっていく。

だが、物語が終わっても、その世界が終わらない、というのが、このデストピアの特色でもあり、現実に進行している世界なのだろう。

 

ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)