確か高校の倫理の授業でルソーを知ったと思うのだけれど、レシートを見ると買ったのは大学生の頃のようだ。
不平等はなぜ生まれたのかを考察しているのだけれど、何の不平等なのかはいまひとつ曖昧だ。
むしろ専制国家の非難のような論調だ。
動物的存在としての人間は、他の動物のように突出した能力を持たない、というのが推察の始まりである。
突出した能力を持たないが故に、知性を以て何かを利用する。
土を耕し小麦を育て、鉄を製鉄し鍬を作る。
知性の働きにより、生産性が向上し、持てる者と持たざる者が現れる。
当初は、孤独で平穏な人間は、数が増えるに従って、接触を持たざるを得なくなる。
それが衝突を生み、集団が生まれ、国家へと発展してゆく。
とまあ、こんな感じだろうか。
いまさら、その推論自体に異議を唱えたいのではない。
いくつか気になった箇所がある。
ひとつは、たった数行なのだけれど、自然権について語っている箇所がある。
自然権とは自然的存在として自明に持っている権利だろうと思うが、ルソーはその根拠を知性に拠っている。
生きとし生けるものの全てに認めるかのように論理展開しようとして、知性が故に人間だけに認め、他の生物には不当に虐待されない権利のみを認めている。
アミニズム的な価値観と理性主義的な価値観の間で、少し揺れ動いているかのようだ。
もうひとつは、自註の中で、狼や熊に育てられた少年少女たちのエピソードに触れている。
そのうちのひとつの事例で、1344年にヘッセン近郊で発見された子供は、後になって、もし自分のことだけしか考えなくてもよいのならば、人間のあいだで生活するよりは、狼のところへもどりたかった、と言ったそうである。
ルソーの根底にある反理性主義を端的に表しているような気がするが、それよりも、その子供が人間の世界に戻され、言葉を習得したが故に伝える事が出来た悲しみ、失ってしまった幸福な時間への追憶のようなものが伝わってくる気がした。
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