久しぶりに読んだ笠井潔は相変わらずだなと思った。
何が相変わらずなのかというと、日本に対する憎悪と世界同時革命の夢である。
この本は、終戦に至る日本軍と、福島原発事故における政府の意思決定のあり方を並べ、そこに日本的なるものを見いだし、批判を行っている。
その趣旨は本の中で何度も繰り返されるが、歴史認識の欠如と「空気」の支配への無抵抗、と要約できる。
(この「空気」は、山本七平の「空気の研究」からの引用だ)
確かに、明快にして、正鵠を得た話であり、自らにも思い当たる節がある。
従って、これを否定はしないのだが、その尻馬に乗るような事も書きはしない。
その批判を受け止めて、「さて、これからどうするかな」といった感じといえば良いだろうか。
もう一つ気になるのは、では明治維新はいったい何だったのかということだ。
十九世紀的な列強への合流という時代感覚は、どう評価すべきなのだろうか。
江戸時代の幕府を中心とした泰平楽な体制に対して、薩長同盟という辺境からの革命が成功したのは、歴史感覚の濃淡に拠るものだろうか。
そうだとするなら、成功者たちは歴史感覚を失い、失速して、終戦に至ったのであろうか。
確かに笠井潔氏の議論は、その断面に於いては納得しうるものなのだけれど、どこかに留保が付く様な気がする。
あとがきで軽く触れる「アラブの春」へのシンパシーは、スラヴォイ・ジジェックの議論と比較すると、同意はできないのだった。
8・15と3・11―戦後史の死角 (NHK出版新書 388)
- 作者: 笠井潔
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2012/09/07
- メディア: 新書
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