いつ頃読んだのか、もう定かではない。
だが、ジイドについて誰かと話したことは無い。
古本屋を巡ってまで、何冊か買い漁っているのだから、高校生の頃に読んだと思われる。
そうしてまで読んで、大事にとってあったのだから、何かしらの感銘を受けたのだ。
しかし、読み返してみて、若かりし自分が、この本のどこに惹かれたのかよく判らない。
無神論者にして古典学者の主人公ミシェルは、新婚旅行の途中で病に倒れる。
熱心な信者である妻マルスリイヌの、懸命な介護によって、ミシェルは回復し、北アフリカにて肉体性を自覚する。
それまでの学者人生と異なった価値観に気づき、今までと異なる論文を発表したり、領主になってみたりする。
だが友人メナルクは、いずれミシェルが“選択”しなければいけない、と予言する。
妻は流産し、肥立ちが悪く衰えていく妻を連れて、スイス、イタリア、北アフリカと旅行する。
悲劇の連鎖の中へとミシェルは突き進んでいく。
何とも後味が悪く、陰鬱な物語だ。
自意識過剰な高校生は、何を思っていたのだろう。
ミシェルが背徳者たる所以は、妻が信じているキリスト教の神を、信じないことだろうか。
あるいは、献身的な妻の気持ちを裏切るかのように、自らの価値観の赴くままに過ごすことだろうか。
いずれにしても、ミシェルはミシェル自身の価値観によって生きることを決めている。
裕福な生活も、いずれ起きる悲劇も、友人の助言も、ミシェルの一部なのだ。
そうか。
自らが自らである、そのことに於いて、いかなる価値をも、自ら以外に求めない。
自分が知りうる最も忌まわしい存在である自分、という考え。
そんな共感をしたのかもしれない、と不惑になった今、想像している。

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